2007年01月22日

骨董 和硝子のコップについて

意匠を凝らすアンティークと現代的簡素


<序>
 
 一つ一つが、まるで美しい雨のような趣を持っているアンティークガラスのコップや器。しかし、もはやその美しさは過去の遺物となり、今日、その需要は量産型の味気ない普通のガラスコップや器に、取って代わられています。なぜ、アンティークガラスのガラスやコップは衰退していったのでしょうか。また、それらの質感や色彩感を捨て、簡単に手に入る現代の量産品で身の回りの環境を整えがちな事は、我々にどのような影響を及ぼしうるのでしょうか。
まずは、日本のガラスの歴史を辿ってみたいと思います。


<なぜアンティークガラスのコップや器は衰退したか>
 
 日本ガラスの歴史は、弥生時代にまで遡ることが出来ます。しかし、室町時代までは、装身具としての玉(ぎょく)などの他には、ほとんど国産品はありませんでした。新たな日本ガラスの歴史は、1549年にポルトガル人のフランシスコ・ザビエルが西洋ガラスを伝えたことから始まりました。
江戸時代に入ると、長崎に、南蛮人や中国人から技を伝授された、ビードロ(和製のガラス)吹き職人が現れました。
 鎖国下の日本では、長崎から入るガラスは大変に高価なものでした。そのため、ガラス職人たちは小さな工房の中で、国内の必要な分だけの需要に応えていればよく、恵まれれば、藩からの援助も受けられました。ところが、明治維新後は事態が急変しました。鎖国が解かれると、良質なガラス、ギヤマン(欧米のガラス)が流れ込んできました。石油ランプ、安価なプレスガラス、上質なカットガラス、美しい吹きガラスなどは、「ソーダ石灰ガラス」というものから出来ており、江戸期に使われていた「金属鉛ガラス」とは、比べ物にならないほど堅く、完成度の高い物でした。
 当時の日本は、意識的に西洋のガラス製品を模倣しました。明治・大正のガラス職人にとって、西洋のガラスは、技術的にもデザイン的にも、学ぶべき要素がたくさんあるものだったのです。お手本とされたのは、食器やランプが、フランス・イギリス・アメリカの製品、理化学器具は主に、ドイツを模倣していました。
 明治・大正時代の日本のガラス製品には、粗野な印象の物が多いのですが、これは、高級品は輸入品で揃えられるようになったためです。江戸期の献上品のような、職人技が発揮された製品が必要とされない時代へと入ってしまったのです。
 ガラスの製造は、始めは様々な困難にあいますが、一度軌道に乗ると、かなりの量産ができました。そのため生産過剰になり、多くのガラス会社が苦しむことになりました。
 明治20年前後に三大硝子会社といわれていたのが、民営化された品川硝子と大阪の日本硝子、小名浜に工場があった、磐城硝子です。しかし、この三社とも不況や製品の過剰生産、輸送問題などによって、20年代半ばには解散してしまいます。当時の硝子業界の生存競争がいかに激しかったかを推測することができます。こうしたなかで、華やかなアンティークのガラスは技術的にもデザイン的にも簡素化してゆき、次第に衰退していったと考えられます。


<簡素化した環境が我々に及ぼしうる影響>

 今日我々は、産業革命以後に造られた、記号化された世界に暮らしています。このことは、感覚の鈍化、特に「美意識の欠落」という事態を招きはしないでしょうか。このことの裏付けとして、あるフランス人作曲家は、「ヨーロッパのクラシック音楽は古いヨーロッパ建築の、時間の積み重ねられたデザインにこそ精神が宿っているのであり、その意匠が総合した頂点に音楽や、楽器そのものがあるのだ。」と述べています。このことから、環境が人間に与える影響がいかに重要か、汲み取れると思います。商品や情報を投げつけられ、その時の気分にそって、それを短時間で消費している現代人は、そのほとんどが虚構であることに気付いているのでしょうか。
 明治・大正のアンティークには、物を純粋に見るという当時の人々の視覚的な喜びが溢れています。特にそのガラス製品は、同じ物が一つとして存在しない奇跡の一瞬を固めた作品です。「美しさは、懐かしさと共存している」という言葉があります。しかし、現代においてシステマティックに「郷愁」を作り出しても、それは古典劇の舞台美術と同じことなのです。
 美しいと思ったとき、ためらいもなく反応し、そしてなぜ美しいのだろうという自己評価を同居させること。このことが、我々現代人が感覚を麻痺させないためには必要なのかもしれません。


<参考文献>
「私のアンティーク」No.3 :Gakken
「The あんてぃーく」Vol,7(ガラスと染め付け):読売新聞社
「明治・大正ガラス 183器」 藪崎 昭 :矢来書院
posted by shunpei at 06:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする